社会人が数学をチャート式でやり直すなら「白チャート」一択である理由
「学生時代はあまり数学が得意ではなかったけれど、大人になった今、もう一度きちんと学び直したい」――そう考えてチャート式を手に取る社会人の方は、年々増えています。
ただ、いざ書店でチャート式を眺めてみると、白・黄・青・赤の4種類があり、「どれを選べばいいのか」「そもそも社会人がチャート式で本当に学び直せるのか」と迷ってしまう方がほとんどではないでしょうか。
結論からお伝えすると、社会人が数学をやり直すなら「白チャート」一択です。そして、ただ白チャートを買って解き始めるだけでは挫折します。仕事をしながら効率よく数学力を身につけるには、社会人専用の進め方があります。
この記事では、私自身が長年使い続けてきた経験をもとに、「なぜ白チャートなのか」「具体的にどう進めればいいのか」を、社会人の方が今日から実践できるレベルまで落とし込んで解説していきます。
そもそもチャート式とは?4色の違いを社会人向けに整理
チャート式は数研出版が刊行している高校数学の参考書シリーズで、表紙の色によって難易度が分かれています。
- 白チャート:基礎レベル。教科書レベルの内容を一からていねいに解説
- 黄チャート:標準レベル。日東駒専〜MARCH下位レベルの大学受験向け
- 青チャート:応用レベル。MARCH〜早慶・難関国立大受験向け
- 赤チャート:発展レベル。東大・京大などの最難関大学受験向け
受験生向けの情報サイトを見ていると「社会人なら黄か青がおすすめ」と書かれていることもありますが、これは大きな誤解です。次の章で理由を説明します。
社会人にこそ「白チャート」をおすすめする3つの理由
理由1:基礎の基礎から丁寧に解説されている
多くの社会人の方は、高校卒業から何年、あるいは何十年も経っています。たとえ学生時代に数学が得意だった方でも、因数分解の公式や三角関数の定義など、細かい部分はほとんど忘れているはずです。
白チャートは「数学が苦手な高校生」を主な対象にしているため、各単元の最初の最初から、噛んで含めるような解説がなされています。「久しぶりすぎて何から手をつけていいか分からない」という社会人の方にとって、これ以上ないスタート地点です。
理由2:解説が他の色と比べて圧倒的に丁寧
白チャートを実際に手に取ると、想像以上の分厚さに驚くと思います。ですがこの分厚さの正体は、問題数の多さではなく、解説の分量です。
独学で数学をやり直す社会人にとって、解説のわかりやすさは命綱です。質問できる先生がいない以上、自分で解説を読んで理解できるかどうかが、続けられるかどうかを直接左右します。白チャートは、市販の数学参考書の中でこの点が群を抜いています。
理由3:問題のすぐ下に解答が載っている
これが意外と知られていない、しかし最も重要なポイントです。
一般的な問題集は、問題は本誌に、解答は別冊に、という構成になっています。しかし社会人が数学をやり直すうえでは、この構成は致命的に効率が悪いのです。理由は後ほど詳しく説明しますが、社会人は同じ問題を「短時間で何度も繰り返す」ことで力をつけていく必要があり、そのためには問題と解答が同じページにある白チャートの構成が圧倒的に有利になります。
「黄チャートの方がレベルが高くてかっこいい」「青チャートでバリバリやりたい」という気持ちは分かりますが、社会人の数学学び直しの目的は受験ではありません。限られた時間で着実に数学的な思考力を身につけることが目的なら、白チャートが最適解です。
多くの社会人が陥る「チャート式の間違った使い方」
白チャートを買った社会人の多くが、次のような進め方をしてしまいます。
- 1ページ目から順番に解く
- 分からない問題が出てきたら、解けるまで考え続ける
- 解答は紙にきれいに書いて答え合わせをする
- 一通り終わったら、また最初から解き直す
一見、真面目で正しそうな進め方に見えます。しかし、この方法ではほぼ100%挫折します。理由は3つあります。
第一に、白チャートは数Ⅰ・A、数Ⅱ・B、数Ⅲの3冊合計で例題だけでも800問以上あります。これを最初から順番に丁寧に解いていくと、数Ⅰ・Aを終える頃には数ヶ月が経過し、その時点で最初の方の内容はすっかり忘れています。
第二に、人間の記憶は驚くほど早く抜けていきます。エビングハウスの忘却曲線によれば、人は何もしないと20分で42%、1日で74%を忘れます。「ゆっくり丁寧に進める」勉強法は、覚えた端から忘れていくだけの賽の河原です。
第三に、解答を丁寧に書く方法では、1問あたり10分以上かかってしまいます。社会人が平日に確保できる勉強時間はせいぜい30分〜1時間。これでは1日に3〜5問しか進みません。
では、どうすればいいのか。ここからが本題です。
社会人のためのチャート式攻略法【実践編】
社会人が白チャートで数学を学び直すために必要なのは、次の3つの技術です。
- 各個撃破法(範囲を絞って制覇する)
- セルフレクチャー(口頭で高速に解答する)
- ステータス法(問題に濃淡をつける)
順番に解説していきます。
技術1:各個撃破法 ― 範囲を絞ってから取り組む
まずやるべきことは、白チャート全体を一気に進めようとしないことです。
具体的には、「自分が3日〜7日以内に1周できる範囲」をまず決めます。仕事が忙しくて時間が取れない方なら1章だけ、ある程度時間が確保できる方なら数Ⅰの1〜3章まで、というイメージです。
そして、その絞った範囲を完璧に制覇してから、次の範囲に進みます。短期間で何度も同じ範囲を反復することで、エビングハウスの忘却曲線が緩やかになり、知識が頭に定着していきます。
制覇した範囲は「復習ゾーン」、新しく取り組む範囲は「新規開拓ゾーン」と呼びます。新規開拓ゾーンを集中的に攻略し、復習ゾーンはたまに見直すだけ。これを繰り返していくことで、無理なく白チャート全体を自分のものにできます。
技術2:セルフレクチャー ― 紙に書かずに口頭で解く
ここが、社会人が数学を学び直すうえで最大のポイントです。
白チャートを進めるとき、解答を紙に書いてはいけません。代わりに、口頭で解法のキモだけを答える方法を取ります。これを「セルフレクチャー」と呼びます。
たとえば積分の問題を見たら、「この問題は2つの図形の面積の足し算と引き算で考える。交点を出して、扇形の角度を求めて、あとは公式に当てはめて計算するだけ」と、解法の流れだけを口に出して答える。これだけです。
計算の細かい部分は省略します。「微分する」「平方完成する」「内積を取る」と一言で済ませてかまいません。なぜなら、社会人が数学を学び直す目的は計算力をつけることではなく、解法のパターンを頭にストックして、思考力を磨くことだからです。
セルフレクチャーを使うと、1問あたりの時間は数秒〜長くても1分程度に短縮できます。紙に書いて解いていた頃の10分の1以下です。これにより、同じ範囲を何周も反復することが可能になります。
セルフレクチャーには、もう1つ重要なルールがあります。それは「1問あたり7分以上はかけない」というものです。7分考えても解法が浮かばなかったら、いさぎよく飛ばして次の問題に進みます。これは怠けではなく、人間の脳の仕組みを利用した、極めて合理的なテクニックです(詳しくは次の章で説明します)。
技術3:ステータス法 ― 問題ごとに記号をつけて濃淡をつける
セルフレクチャーで問題を解いていくとき、1問解くごとに次の4つの記号のうち1つをつけていきます。
- ☆:完璧に解けた(◯が2つついた状態でさらに解けたとき)
- ◯:解けた
- △:解けなかったが、解説を読めば理解できた
- ×:解けなかったし、解説を読んでも理解できない。または7分のリミットでタイムアップした
2周目以降は、◯がついた問題はスキップして、△と×の問題だけを解き直します。これにより、すでに身についている問題に時間を浪費せず、苦手な問題に集中的に時間を投下できます。
ステータス法でもっとも重要なのは「×」の問題です。一見、「分からない問題を飛ばすなんて投げ出しているだけ」と感じるかもしれません。ですが、これこそが最速で力をつける鍵なのです。
人間の脳には「無意識による超並列処理」という機能があります。意識上で一度真剣に考えた問題は、その後も無意識のレベルで脳が考え続けてくれます。1問に1時間粘るよりも、いくつもの「×」問題を同時並行で無意識に処理させる方が、結果的に圧倒的に早く解けるようになるのです。
実際にこの方法で進めてみると、前回まったく歯が立たなかった問題が、次の周回ではあっさり解けることが頻繁に起こります。これが無意識の力です。
白チャートはどこまでやれば「卒業」なのか
白チャートの数Ⅰ・A、数Ⅱ・B、数Ⅲを上記の方法で一通り制覇できれば、大学受験でいえば偏差値60前後、MARCH・関関同立レベルの数学には対応できる実力が身についています。
「白チャートで本当にそこまで行けるの?」と疑う方も多いと思いますが、これは事実です。実際、白チャートだけで数学検定の準1級(合格率15%程度の難関)に合格することも可能です。
東大・京大の問題でも、白チャートの知識だけで3割程度は得点できると言われています。社会人が趣味や学び直しとして数学に取り組むのであれば、白チャート1セットで十分すぎるほどの到達点です。
もしさらに上を目指したい方は、白チャートを完璧にしたあとに、もう一段階上の参考書(マセマ出版の「実力UP!問題集」など)に進むと、東大・京大レベルの問題にも対応できるようになります。
社会人がチャート式で挫折しないための心構え
最後に、3つだけ大事なことをお伝えします。
1. 完璧を目指さない。社会人の数学学び直しは受験ではありません。1問1問を完璧に理解しようとせず、「ある程度わかったら次へ」のスタンスで進めてください。
2. 毎日少しずつでも続ける。週末にまとめて2時間やるよりも、平日に毎日15分続けるほうが、はるかに記憶に残ります。エビングハウスの忘却曲線を味方につけるには、間隔を空けないことが何より大切です。
3. 「数学を楽しむ」気持ちを大切にする。学生時代の受験勉強と違って、社会人の数学は誰かに強制されているものではありません。試験のためではなく、自分の知的好奇心のために学ぶ。この感覚が、長く続けるための最大の燃料になります。
まとめ:白チャート+正しい進め方で、数学は何歳からでもやり直せる
社会人が数学をチャート式でやり直すなら、白チャートを選び、各個撃破法・セルフレクチャー・ステータス法という3つの技術を使って進めるのがベストです。
大切なのは、学生時代の真面目で非効率な勉強法を引きずらないこと。社会人には社会人の、限られた時間で最大の成果を出す進め方があります。
数学は何歳からでもやり直せます。むしろ、人生経験を積んだ社会人が数学を学び直すことで得られるものは、学生時代に勉強したときとは比べものにならないくらい大きいものです。論理的思考力、問題解決力、本質を見抜く力――これらはすべて、現実の仕事や人生に直結します。
まずは白チャートを1冊、書店で手に取ってみてください。そして、この記事で紹介した進め方で、最初の1章から取り組んでみてください。1ヶ月後、あなたの数学に対する見え方は確実に変わっているはずです。
