解答を書き写す「写経」、本当に効果あるの?
数学の勉強法の1つに、「写経」と呼ばれるものがあります。これは、お手本となる解答を、そのままノートに書き写す勉強法です。分からない問題の解答を書き写すことで、解法を身につけようというものです。
「ただ書き写すだけで力がつくの?」と疑問に思う人も多いでしょう。結論から言うと、写経はやり方次第で効果が大きく変わる勉強法です。正しく使えば有効ですが、間違ったやり方では時間の無駄になります。この記事では、写経の効果と限界、そして正しい活用法を解説します。
写経のメリット
まず、写経にどんなメリットがあるかを見ていきましょう。1つ目は、解法の「型」が身につくことです。優れた解答を書き写すことで、論理の運び方や式変形の流れといった、数学の解答の型を体に染み込ませられます。我流の悪い癖がつくのを防ぎ、正しいお手本をなぞれるのが利点です。
2つ目は、手を動かすことによる定着です。数学は読んで理解する知識型ではなく、手を動かして反復する技術型の学問(テクネー)です。目で読むだけより、手を動かして書く方が、解法のプロセスが記憶に残りやすい面があります。特に、複雑な計算過程を含む問題では、実際に手を動かすことに意味があります。
写経の落とし穴──「ただ写すだけ」は効果が薄い
一方で、写経には大きな落とし穴があります。それは、頭を使わずに、ただ機械的に書き写すだけでは効果が薄いことです。
解答の文字を、意味も考えずに作業的に書き写しても、それは「写経」ではなく単なる「書き取り」です。手は動いていても頭は働いておらず、書き終わった後に何も残りません。これは、ノートをきれいにまとめることが目的化してしまう失敗と同じです。時間と労力をかけた割に力がつかない、最も非効率なパターンに陥ります。写経が「効果がない」と言われるのは、たいていこの機械的な書き写しを指しています。
正しい活用法1:「理解しながら」写す
では、写経をどう正しく使うか。最も重要なのは、1行1行の意味を理解しながら写すことです。ただ文字をなぞるのではなく、「なぜこの式変形をするのか」「ここでこの公式を使う理由は何か」を考えながら書き写すのです。
1行写すごとに「なるほど、だからこうなるのか」と納得しながら進める。理解が伴うことで、書き写す作業が「解法を自分の中に取り込む作業」に変わります。手と頭を同時に動かすこと。これが、写経を効果的にする最大のポイントです。
正しい活用法2:「セルフレクチャー」と組み合わせる
さらに効果を高めるのが、書き写した内容を自分に説明する「セルフレクチャー」と組み合わせることです。1問写し終えたら、その解答の流れを、自分自身に講義するように説明してみる。「まずこの条件を使って、次にこう変形して、だからこの答えになる」と、声に出すか頭の中で再現するのです。
説明しようとすると、理解が曖昧な箇所がはっきりします。詰まった部分が、まだ自分のものになっていない部分です。写経で型を取り込み、セルフレクチャーで理解を確認する。この組み合わせなら、写経は強力な学習法になります。
写経が向いている場面・向いていない場面
写経は万能ではなく、向き不向きがあります。向いているのは、複雑で長い解答の問題や、解法の型をしっかり身につけたい時です。一方、簡単な問題まで全部写経するのは、時間がかかりすぎて非効率です。簡単な問題は、わざわざ写さず、解法を頭で確認するだけで十分。すべてを写経する必要はありません。時間の限られた社会人は、「写経すべき問題」を見極めて使うことが大切です。基本は手早く反復し、ここぞという問題で写経を使う、という使い分けが効率的です。
こうした学習法は、エンリッチ実学院の数学教室で、セルフレクチャーを含む6つのメソッドとして解説しています。
写経だけに頼らない
最後に、注意点を1つ。写経は有効な学習法の1つですが、それだけに頼るのは避けましょう。写経はあくまで「お手本を取り込む」インプットの作業です。本当に力がつくのは、写経で取り込んだ解法を使って、自分の力で問題を解いてみる(アウトプットする)時です。
写経して理解したつもりでも、いざ何も見ずに自分で解こうとすると、手が止まることがあります。そこで初めて、「分かったつもりだった」ことに気づくのです。だから、写経した問題は、必ず時間を置いてから、何も見ずに自力で解き直してみてください。自力で解けて初めて、その解法は本当に身についたと言えます。写経(インプット)と自力演習(アウトプット)をセットにすること。これが、写経を本物の力に変える最後のポイントです。インプットだけでは、学習は完成しません。
まとめ──写経は「理解しながら」で効果が出る
数学の写経勉強法は、解法の型を身につけ、手を動かして定着させる効果がありますが、機械的に書き写すだけでは効果が薄くなります。1行1行を理解しながら写し、セルフレクチャーで理解を確認すること。そして、写経すべき問題を見極めて使うこと。正しく活用すれば、写経は社会人の学び直しを支える有効な手段になります。
学び直し全般の情報は、エンリッチ実学院の公式サイトでも発信しています。
